研究概要 |
固体の弾性定数などの物質定数は,従来実験的手法などにより求めることが通例であった.また分子動力学などの数値的手法によりこれを求めようとする場合には,応力などの巨視的な量を原子に関する微視的な諸量で表現しておく必要があった. 本研究では,はじめに原子の質量,原子間ポテンシャルあるいは原子の配置などの微視的な諸量を与え,これにより応力などに関する巨視的な量を表現することを試みた.そのために,質量,運動量,角運動量およびエネルギー方程式を微視的な量で表現する必要があり,これらをエネルギー原理および釣合い方程式の両方から求めることができた.これらの方程式から巨視的な量の表現を得ると共に,各種の材料定数を微視的な量で与えることができた. この過程において原子の集団をモデル化する際に,中間領域(メソドメイン)を設定することが特徴的であるが,そのために遇応力を一般化した高次応力に相当する項がこれらの方程式に現れた.そのためこの高次応力の微視的な定義も同時に得ることが可能となった.また高次応力に関する項が存在するために,熱流束に関する微視的な表現が影響をうけ,高い次数の応力の項を導入するほど,熱流束の定義をより小さい量として表現し直す必要のあることが判明した.このことは巨視的な検討からは導くことができず,この点も本研究により得られた新たな知見の一つである. 微視的な量で新たに定義された高次応力およびこれらに関する弾性定数の正当性を確認するために,アルミニウムをモデル化し,そのメソドメインに関する分子動力学的な計算を行なった.負荷した応力,および高次応力に対し,本研究で得られた微視的表現による値は良く一致し,これらの量の微視的な定義式の妥当性を認めることができた.
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