研究概要 |
レーザビームによる切断加工において,工作物の熱変形が切断精度に及ぼす影響を調べ,切断精度の向上のための指針を得ることが本研究の申請時の最終的な目標であった.そのためには,まずスタート穴の穿孔時や,その後のビームが移動して切断が行なわれている時の,工作物に流入する熱入力を実測する必要がある.その結果を用いれば,切断時の工作物面内の2次元的な非定常熱伝導解析を行い,面内の熱変形と,応力,ひずみ分布の計算機シミュレーションを行なうことができる.そこで,研究期間内に行なったことは,その第一歩として,穿孔加工時のレーザパワーの吸収率変化の測定である. 工作物のレーザパワー吸収率に影響する因子は多く,これまでに工作物材料の材質,温度,表面あらさ,表面酸化,内部応力などの因子が個々に吸収率変化に及ぼす影響が調べられてきた.しかし,実際の加工においては,それらの因子が総合的に影響し吸収率を決定する.しかも,穿孔加工においては加工穴深さの進展に伴いレーザ照射面形状が刻々変化する.また,工作物材料の蒸気やプラズマの発生がレーザ光を吸収し,工作物表面のパワー密度が減少する効果も無視できない.そこで,本研究においては上記のすべての因子が総合的に作用する結果としての実際の吸収率を測定し,工作物の熱変形の解析に役立てることを目的とした. 測定の原理は,穿孔加工時の工作物のある一点での温度変化を熱電対で測定した結果を,レーザパワー入力を仮定して得られる3次元非定常熱伝導解析結果と照合することにより吸収率を推定する.逆問題解法の原理である.レーザの照射時間がt+△tであるとき,時刻tまでの既知の吸収率変化から,微少時間Δtにおける吸収率を推定する手続きを繰り返す方法によって,加工穴の深さの進展に伴う吸収率変化を調べた.その結果,炭素鋼の加工の場合,照射当初は固有の吸収率が数%であるにもかかわらず,時間とともに吸収率が急激に増大し,加工穴の貫通時には最大値(約30%)に達し,その後加工穴の拡大と最終形状への漸近にともない吸収率は緩やかに減少することが明かとなった.
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