研究概要 |
超精密加工において,刃先を極限にまで鋭くしたダイヤモンドバイトが使われるが,切り込みが小さくて加工条件が過酷でないことから,発生する熱量は小さくこれまで特別の関心が払われてこなかった.ところが,最近ダイヤモンドバイトの寿命に大きく影響する因子として,刃先温度が注目されてきている.すなわち,切削熱は極めて小さな領域に集中するため,その領域は想像する以上に高温になっていると考えられてきている.ところが,ミクロンオーダの微小領域で,しかも工作物と工具の接触領域という極めて特殊な領域の温度であることから,従来からある熱電対や赤外線輻射温度計ではとうてい測定することはできない.本研究は,ダイヤモンドが赤外線を透過しやすいという性質を利用し,カルコゲナイド光ファイバと赤外線検出複合素子を組み合わせた新しいタイプの温度計を製作して,ダイヤモンドバイト刃先の最高温度を精度良く測定しようとするものである. 本年度は光電変換複合素子の設計製作,及び天然ダイヤモンドによるバイトの製作に主眼をおいて行ってきた.まず,光電変換複合素子については,浜松ホトニクス(株)の技術者と相談し,測定条件(測定温度,感度,反応速度など)に適したInsb-MCT2色素子を設計製作した.また,アンプ部を含めた回路設計を行い,温度測定を行うことのできる温度計の製作に成功している.また,超高速波形記録装置(高速デジタルオシロスコープ)とパソコンとを組み合わせたデータ処理システムも構築することができた.次に,特別仕様のダイヤモンドバイトを準備する必要があったが,大阪ダイヤモンド工業の協力により,光ファイバをダイヤモンドチップ直下にセットすることができる特別仕様のバイトを製作することができた. これら完成した測定装置を用いて,無酸素銅や純アルミの超精密加工時の温度計測に適用したところ,十分な精度で測定することができ,この結果は今年度末の精密工学会で発表する予定である. 今後,測定精度を上げるため,さらに研究を重ねていく予定である.
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