研究概要 |
今回の研究は理論的及び実験的両面からおこなわれた.まず国内の研究者の特に,関節の弾性流体潤滑機構と細菌の鞭毛モーターの軸受け部分の潤滑機構に関する研究を調査し,関節や鞭毛モーターの機械的構造,化学的成分構成,及び物理的な挙動に対する知見を得ることができ,またまた以後の研究においても適切な助言も受ける事が出来た.この調査より,生物における超低摩擦機構の発現機構にはまだ不明な点が多数あり,またモデル化によりこの潤滑機構を再現することは困難であることもわかった.このような場合には計算機を用いた数値計算により,比較的単純な状況下における仮想実験とも言える,分子動力学を用いたシミュレーションが有効であることがわかった. 次の段階として原子間力をポテンシャルを用いて表現する原子力場の方法をもちいて,分子動力学を用い鞭毛モーターの軸受部分の超低摩擦機構のシミュレーションをおこなった.この計算により,ミクロな摩擦係数は摺動面相互の単位構造の周期の差に非常に敏感に依存することがわかった.しかしながらポテンシャルという量子力学を考慮に入れていない計算であるために化学種の差による摩擦係数の変化についての定量的な情報を得いることは出来なかった.そこで量子力学的計算を用いて鞭毛モーターの潤滑機構に対する化学種の差の影響のシミュレーションもおこなった.量子力学的計算は古典的な計算に比べて,おなじ原子数の計算でもはるかに多くの記憶容量と計算時間を要するため単位構造の周期の差による摩擦係数への影響との相関の研究には改良の余地が残った. また理論的研究と並行して実験的研究も行った,理論的な研究から単位構造の周期の差を無理数に近づけることは低摩擦に有利であることがわかったので,グラファイト相関化合物やシリコンの結晶面を用いてモデルとなる系を構成し潤滑の実験を行った.この実験により通常は摩擦係数を下げる役割のある酸素がミクロな潤滑機構の場合には逆に摩擦係数を上昇させる悪影響を及ぼすことがわかった.
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