研究概要 |
大規模・複雑化の進むプラント運転においては,空間的・時間的さらにはバックグラウンドとなる専門知識が分散した環境の下での,複数オペレータによる協調的な運転監視が通常である.このような分散意思決定環境下では,個々のオペレータの有する概念知識と意思決定の相互共有の促進が鍵になる. 本研究ではまず初年度において,意思決定分析手法の一つであるインフルエンス・ダイアグラムを用いたし尿処理プラントの知識ベース型制御器の制御則集合の導出法について提案を行った.まず一般的なセンサ入力に基づく制御系のモデルを示し,ダイアグラム上での確率推論を実行して得られる解をルール化することによって制御則集合の合理的な導出が可能になることを示し,し尿処理プラントの知識ベース型制御系設計の問題に適用して複数プロセスの協調を実現のための制御則が合理性規範に基づいて導出できることを示した.またオペレータの把握する「曖昧な概念」を,多面的・多階層(抽象度のマルチレベル)の構造(冗長性)を有する概念としてオペレーションデータや対象システムの履歴データから自動生成する手法を開発し,意思決定支援技術として応用した. 次年度は前年度の成果に基づき,以下の2つのテーマについて研究を行った.一つはユーザの挙動を観察するなかから人間の認識やシステムの状態に適合した形での情報の選別や発見を行なう動的概念形成システムの提案で,必要情報を非関連情報から選別しながら概念を形成することのできる属性選別機能を付加した概念形成手法と既存の属性集合から構成的(constructive)により効率的なタスク解決に有効に働く新たな情報を発見する遺伝的アルゴリズムを用いた新属性創出アルゴリズムからなる.2つめのテーマとしてプラントオペレータへのアソシエイト・システムとしてのエージェント設計に関する研究を行なった.すなわち前年度開発した手法を用いて生成したオペレータのプラントの故障に対応するタキソノミ(分類)概念を有するエージェントで,これは刻々と変化するプラント状態から自律的に診断モデルを構築して対応策を講じることができるモード(ヒューマン・アウト・オブ・ザ・ループ)と,オペレータに情報を提示して判断を委ねるモード(ヒューマン・イン・ザ・ループ)の両モードを備える.このようなエージェントが,異常発生時のように応答までの厳しい時間制約が存在する下で,前者に対しては診断モデルの合成を異なる近似レベルで行うことで求解に要する計算負荷を回避し,また後者に対してはオペレータのおかれている状況の認識に基づいて支援情報を出し分けるための提示情報管理(ディスプレイ・マネジメント)を徹底することで,ヒューマン・フレンドリィなインターフェース設計を可能にするための資源制約下推論の定式化を行なった.
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