研究概要 |
近年,負荷の増加と多様化による電力系統の電圧変動の増大が顕在化している。特に,速応性のパワーエレクトロニクス機器の導入が,系統における急激な電圧変動を引き起こす傾向にあり,瞬時的な電圧変動対策が重要な課題となっている。従来,このような電圧変動を抑制する装置として,サイリスタとリアクトル・コンデンサで構成される静止形無効電力補償装置(SVC)があるが,高調波の発生や応答速度,制御範囲の拡大など,改善すべきいくつかの事項が指摘されている。 本研究は,筆者の着想による直交磁心形プッシュプル可変インダクタンスを用い,高調波が少なく高速な無効電力補償装置を開発することを目的に行ったものである。以下に,本研究で得られた成果をまとめる。 (1)装置の作製:直交磁心を用いて1kVA程度の可変インダクタンス(直交磁心形LIV)を製作し,その基礎特性について詳細に検討を行った。本研究で提案するプッシュプル可変インダクタンスは極めて高調波の少ないもので,従来の電力制御用デバイスでは得られない全く新しい方式である。 (2)高速制御方式の開発:直交磁心形LVIの高速制御のための回路方式について検討した。半導体チョッパによる瞬時電圧制御を提案し,ステップ状の直流制御入力に対して1サイクルで定常に達するような高速制御手法を確立した。 (3)実証実験:以上の成果をもとに,直交磁心形LVIとコンデンサ,及び適切な検出・制御回路を用いて,±500Var程度の無効電力補償装置を試作した。本装置は,交流系統の電圧変動を検出し,無効電力の潮流を制御することによって電圧変動の抑制を図るものである。模擬系統による試験結果,試作器により,ステップ状の急激な電圧変動も3サイクルで抑制し得ることが明らかになった。この性能は,十分実用に供し得るものである。 以上より,直交磁心形LVIとその高速制御方式の提案,無効電力補償装置の試作と実証試験がなされ,本研究の初期の目的がある程度達成されたものと考えられる。 高圧配電系統に大容量のSVCを設置するこれまでの方式に対し,本研究で開発された無効電力補償装置は,低圧需要家側に設置してよりきめ細かな電圧制御を行う場合に適するものであり,急激な電圧変動を引き起こすパワーエレクトロニクス機器の民生応用が進んでいる現状を考えると,今後,本方式の必要性はますます高くなると考えられる。
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