研究概要 |
ポーラスSiは単結晶Siを弗酸溶液中で陽極化成することによって形成される極微細構造であり,これに光を当てたり電流を流したりすると微細構造自身が可視光を発するようになる。結晶Siは超LSIを作製する母体結晶として極めて重要な結晶であるが,そのバンド構造が間接遷移型であるために発光デバイスには不向きであり,僅かに赤外領域で弱い発光を示すのみである。ところがポーラスSiが可視域で強い発光現象を示すことが知られて以来,Siだけで電子デバイスも光デバイスも作製できる可能性が開けてきたので大きな興味が持たれるようになった。本研究は良好な発光特性を示すポーラスSi膜を作製する条件を検討することである。ポーラスSiの発光のメカニズムについては量子サイズ効果によるものという説明もあるし,微細構造表面に形成される酸化膜によるという説明もあるがどちらも定説とはなっていない。一方,実験的には陽極化成とその後に起こる酸化の過程の制御性が乏しく、例えば陽極化成後に試料を大気に取り出す過程で自然酸化膜が形成され,その構成が不安定であるために発光が長波長化してしまい,かつスペクトルも広がってしまうなど,制御された発光特性を再現性よく実現するためには多くの課題が存在する。そこで、発光強度が強く,スペクトル幅が狭く,かつ長期間安定なポーラスSi膜を作製するために、陽極化成及び酸化の溶液中に光ファイバーを導入して発光をその場観察することによりポーラスSi膜作製過程を解明して高品質膜を得る条件を探索した。その結果、 (1)陽極化成終了後,純水やエタノールを用いてリンスを行った後に大気中に試料を取り出すと発光は大幅に長波長化してしまい,スペクトルも広くなることが判った。 (2)次にリンスの過程で起こる表面酸化の様子をその場PL測定で調べた。エタノール中の酸化だけは時間とともに徐徐に発光の強度が増大し,ピークは長波長化する。その他の3つの酸化方法(陽極酸化,純水流水中酸化,硝酸中化学酸化)では最初の5ないし10分間は同様に強度が増大し長波長化するが,それ以後では強度が減少し短波長化する。化学酸化は発光強度が相対的に弱いが最も短波長であることも判った。
|