研究概要 |
スリット付き砂防ダムは,土砂調節機能ならびに渓流生態環境回復の両面から好ましいダム形態であるが,ダム上流に形成される渦構造が水と土砂の流出を阻害している。すなわち,スリット付き砂防ダムの機能改善の要点は,上述の渦構造の破壊あるいは影響の軽減にある。このような観点より,水平・傾斜リブ工あるいはベーン工と称する鉛直導流板などの機能を検討した結果,リブは渦の位置を変化させるのみで,機能改善工法の基本はベーン工にあることが確認された。 ベーンの適正な設置基準を得るべく,幾何諸元を系統的に変化させた多数のケースの実験を実施した。まず,ベーン工を1対設置することを前提に,抜水状態で,長さを種々に変化させた実験により,実用性も考慮した適正長として,スリット幅の1〜1.5倍を得た。ついで,高さに関する実験の結果,越流水の水面より僅かに下げるのが好ましいことが分かった。次に,上流側に1対追加して,2対とする場合を考え,その縦断方向間隔を検討した結果,2対の間隔をベーン長さと同程度にすることが望ましいことが明らかにされたが,2対目の追加により目覚ましい効果の向上を得ることはできなかった,その他,べ一ンに翼状の構造物を付加するなど,種々の改良案を試みたが,現在までのところ抜本的な対策案は見出されていない。 スリットダム上流の堆砂層形状を固定床で成形し,流れの3次元流況を計測し,スリットダムの機能不全の原因を水理学的な観点より考察した。渦構造は,水の流出の有効断面積を現象させて,接近流を堰上げるとともに,とくに堆砂肩直下流の掃流力を削減することを通して,機能不全を引き起こしていることが確認された。さらに,ベーン工を設置した場合には,渦構造が明らかに減衰あるいは破壊されることが実証された。 満砂後に数回の中小洪水の流下がある状況を想定して,ベーンの有無による土砂調節の相違を調ベた。その結果,ベーンを設置すれば,流量によく対応した円滑な排砂がなされることが分った。
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