研究概要 |
有限要素法などの離散化増分解析法による弾塑性構造物の挙動予測において,いくつかの要素が,塑性流れ則にしたがう可能性がある状況の下では,各要素のひずみ速度の符号と整合する剛性係数を選択して剛性行列を形成しなければならない。従来の弾塑性解析コードでは,試行解析結果のひずみ速度に基づいて要素の剛性係数を変更する試行修正過程が基本的に採用されているが,ときに循環剛性選択過程に陥ることがある。本研究の目的は,整合剛性行列形成問題に対する一般化理論の構築を試みるとともに,確実に整合剛性行列が形成できる弾塑性解析法用アルゴリズムを提供することである。整合剛性行列形成問題における循環剛性選択過程は,数値誤差による現象なのか,数値計算力学における力学問題なのかを明らかにするには,数値解析では避けられない誤差の問題を排除した解析的検討が必要である。本研究では,2つの弾塑性ばねを有する2自由度の単純モデルを採用し,慣用の試行修正過程を行った場合のばねの剛性係数の選択過程とそれに伴って生じる循環剛性選択過程について詳細な検討を行い,循環剛性選択過程についての以下の特性を明らかにした。(1)解析目的に応じて設定された増分制御変数において,もはやその変数を増加させる解がない場合に生じ,この場合,循環剛性選択過程は解析目的を満たす解が存在しないことを意味する。(2)前ステップで塑性負荷であった要素の除荷を厳密に捉えられない場合で,剛性行列の行列式の値の符号変化を捉えられない場合に循環剛性選択過程に陥る。この場合は増分制御が不十分で数値誤差のため循環剛性選択過程に陥ったと言える。循環剛性選択過程に陥るこれら二つの場合に共通する現象として,比較体の選択に対応する剛性行列の行列式の値が負になっている。このことから,比較体の剛性行列による速度解を用いた整合剛性行列形成アルゴリズムを示した。
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