1. 平成7年度から9年度までの研究結果と現地調査とを総合して、1920-30年代に建てられたパリの現存建物535棟のリストを作成することができた。そのリストは、建物名称・所在地・建設年・設計者・施工者を記載し、最後の備考覧に意匠的特徴などを記したもので、パリのアール・デコの建築に関する基本的な資料となるはずのものである。また同時に、アール・デコの建築のルーツを探る目的で、1900-10年代に建てられたパリの建物72棟のリストをも同様な体裁で作成した。この二つのリストによって、パリのアール・デコの建物の悉皆調査という当初の目的の一つが達成されたものと考えている。 2. この研究の過程で浮上した建築家Jean Boucherの経歴と作品については、日本建築学会大会学術講演会などですでに発表しているが、その成果の概要はつぎの通りである。まず、彼の経歴については同時代の著名な彫刻家にして建築家・装飾家でもあった同姓同名の人物とフランスにおいても混同されており、結局のところはっきりはしない。けれども、彼の建築家としての資格はフランス建築家協会から与えられているが、これは概ね建築の専門教育を受けない独学の建築家を意味すること、また建築家としては珍しく法学博士の学位を持っており、これは彼がそうした法律の知識を生かした半ばデヴェロッパー的な存在であったことが判明した。つぎに彼の作品についてであるが、それについてはかなり明らかにできた。すなわち彼は、1911年から1932年まで、パリ市内に67の建物を設計している。また、パリに接するブーロニュ=ビヤンクール市にも3棟の建物を設計しており、その3棟については図面も残している。今後、これらの成果を順次公表していきたい。
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