研究概要 |
本研究では,結晶学的条件(格子定数,結晶系,原子サイズ)と熱力学的因子(表面エネルギーや平衡状態図の特徴)を考慮して,当初計画した金属多層膜のうちAu/CuとAg/Cuを作製し,それらの界面構造と界面での組成の急峻性や格子歪を回折結晶学的手法,特にX線回折法や透過型電子顕微鏡法で解析し.今回の研究で得られた主な実験結果を以下にまとめる: (1)積層構造解析により,Au/Cu,とAg/Cuのいずれの多層膜でも積層界面に於ける優先的な結晶方位関係は稠密面(111)を積層面をとり,面内では100nm程度の方位を揃えていないドメイン構造になっていることがわかった.(2)X線回折では,小角度域と中角度域の両方の解析結果を総括した積層構造野解釈が重要であり,購入した精密モノクロメータ系の使用で小角度域の回折ピークを精密測定でき.組成濃度の急峻性を評価するのに有効である.(3)Au/CuとAg/Cuの界面における組成勾配を比較するとAu/Cuの方がより急峻であった,この理由として,AuとCuの表面エネルギーの差はAgとCuのそれよりも小さいために界面に於いてより整合性の良い,結果として組成勾配が急峻な積層構造が得られたものと解釈できた.(4)積層膜の積層周期の異なるAu/Cu(AuとCuの原子比が1:3と1:1の2種類の多層膜)を真空中で熱処理したときの積層構造変化を調べた結果,界面にそれぞれの組成に対応した多結晶の規則合金が生成されており,界面の多い積層膜では界面反応を通して容易に規則合金が形成されることが分かった.(5)両者の積層構造の崩壊速度は原子比が1:3のものの方が1:1のものより遅かった.これは,AuがCu中を拡散するのがCuがAu中を拡散するよりも大きいことを考えれば説明できることを示した.実際に相互拡散係数を導出した結果,Cu/agとAu/cuとの構造変化の違いをも説明する相互拡散係数の大きさであった.
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