焼き入れFe-1.83wt.%C合金マルテンサイトの室温時効中におけるC原子の凝集・規則化挙動を電子顕微鏡の電子回折図形に現れた散漫散乱を3次元的に解析することによって詳細に調べた。すなはち、電子線の入射方向を正方晶マルテンサイトの[100]から[110]方向の間で連続的に変化しながらin-situに電子回折図形を撮ることによって散漫散乱の強度分布を求めた。それらの電子回折図形に含まれる[001]^*方向は4回対称軸であるから、この強度分布は逆格子空間における散漫散乱を完全に表している。それによると、各基本格子反射点には散漫なストリークとその先に散漫な衛生斑点が付随していた。従来の研究では、それらのストリークは[001]^*軸に3の指数を持つ八つの〈203〉^*方向だけに観察されていたが、今回の連続的なin-situ電子回折実験により、ストリークは〈203〉^*方向を連結して形成されるピラミッド型の立体形状であることが分かった。また衛星斑点の出現をも考慮して、それらストリークのフーリエ解析を行い、以下のことが分かった。 Fe-1.83wt.%C合金マルテンサイトは室温時効によってスピノ-ダル分解を起こしている。そのスピノ-ダル変調微細組織はやく1nmの波長を持つ優先波とそれよりながい波長を持つ付随波とからなり、その組織は7か月間時効しても変化しなかった。変化しなかった理由は、C原子が豊富になった領域と貧疎になった領域の間の強い弾性的相互作用のために成長が阻止されたからである。さらに、マルテンサイトの正方度は時効中一定で、スピノ-ダル分解中のC原子の再配列が正方軸に沿う8面体侵入位置を保ちながら行われたことを示した。
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