研究概要 |
超臨界水中を利用した反応プロセスが最近活発に検討されているが,その明確な反応機構は未だ解明されていない。反応中間体の水和 構造とその動力学 が反応機構の解明のブレークスルーと考えられるが、この点に関する検討は皆無であり、本研究ではこれを研究目的とした。 実験的検討が現時点では困難なことから計算機シミュレーションを用い、超臨界水中での反応物質ならびに中間体への溶媒分子のクラスタリングについて検討した。 まず,水に対して現在までに報告されているポテンシャルモデルを検討した。その結果,超臨界水にはRigidモデルよりは分子内自由度が考慮されているFlexibleモデルが適当と判断し,その中で関数形の簡単なTaukan-Ramanモデルのパラメータを赤外スペクトルや密度データを用いて最適化した。次に,分子間ポテンシャルパラメータの最適化を行い,本モデルでの臨界点の推定を行った。得られたポテンシャルモデルを用いて,NaCl水溶液を対象として,室温から臨界点近傍までの広範囲で,分子動力学シミュレーションを行った。P-V-Tデータからは、電解質の添加により体積が減少すること,すなわちイオン周囲に強い水和構造が形成されており,この傾向は臨界点近傍ほど顕著であることが示唆された。また動径分布関数からは温度上昇とともにイオン周囲の水分子の分布頻度が低下するが,これはNa_+よりはCl_-のほうが顕著であった。さらに,水和分子の安定性について相対運動エネルギーに立脚した溶媒和分子の識別定義を提案し,これに基づいてイオン周囲の水和の安定性を調べたところ,Na_+については水和分子の絶対数は常温に比較すると超臨界状態ではかなり少ないが安定性については,ほとんど同じであるという結果が得られた。
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