1.ドーパミン β-ヒドロキシラーゼ(DBH)による不斉合成 DBHは、生体内においてdopamineのベンジル位を不斉に酸化しnorepinephrineを生成する。本酵素および化学修飾により安定化したPEG-DBHの新たな電子伝達系を構築し、活性発現について検討した結果、本酵素とferrocene誘導体からなるハイブリッドタンパク質が電極と電子の授受を行い効率的に酵素活性を発現することを見いだした。DBHおよびPEG-DBHの有用化合物合成への適用範囲を探るため、基質特異性について検討した。本酵素はphenylalkylamine化合物やphenylalcohol化合物を不斉に酸化しR体の光学活性アルコールを生成した。また、基質のヘテロ原子上に種々の置換基を導入した結果、phenylalkyl誘導体については、alkyl末端に水素結合において水素供与体なり得るようなヘテロ原子をもつ化合物が本酵素の基質となることが明らかとなった。さらに、indanなどの2環化合物について検討した結果、芳香環のβ位にアミノ基や水酸基をもつ化合物が基質となり、酵素により導入された水酸基の立体選択性はphenylalkyl化合物と異なりS体であった。このことから、本酵素の活性中心の構造が推定された。 2.シトクロームP450camの新たな活性発現系の再構成 天然では活性発現に複雑な電子伝達系を必要し、そのため合成化学への利用が困難であったシトクロームP450cam(P450)の電子伝達系の再構成について検討した。P450と電極との直接の電子授受は観測されなかったが、putidaredoxinを電極上に化学的に固定化したタンパク質修飾電極を用いることで、電極とP450の間で電子の授受が起こった。また、本系に基質を加えると、触媒電流が観測されることから、本系が新たなP450活性発現系であることは明らかである。今後は、より効率的な電子伝達系を再構成し、本酵素による合成化学的な応用を図る。
|