研究概要 |
テトラフェニルポルフィリン(TPP)のMn(III),Mo(V),Fe(III),Co(III)ならびにIn(III)錯体(それぞれ、Mn(TPP)^+,MoO(TPP)^+,Fe(TPP)^+,Co(TTP)^+およびIn(TPP)^+と略記)について、液-液二相分配系における陰イオン選択抽出性の評価に関する諸検討を行ない以下の成果を得た。 1)MoO(TPP)^+,Fe(TPP)^+,Co(TTP)^+では2相間にまたがる加水分解が顕著におこるが、Mn(TPP)^+とIn(TPP)^+では加水分解が顕著でないことがわかった。このためMn(TPP)^+とIn(TPP)^+については溶媒抽出イオン交換定数の測定が可能であり、5種の一価無機陰イオンについてBr^-基準のイオン交換定数を水-クロロホルム系ならびに水-1,2-ジクロロエタン系について測定した。その結果、これらの錯体による陰イオン抽出における非ホフマイスター挙動は、溶媒極性が低下するほど顕著になることがわかった。さらにMoO(TPP)^+,Fe(TPP)^+,Co(TPP)^+については加水分解を抑制して、陰イオン抽出選択性を半定量的に検討したところ、いずれも非ホフマイスター型の陰イオン選択性を示した。以上より、これらの陰イオンキャリヤ-による陰イオン選択抽出性は、中心金属イオン種のみならず、溶媒の種類によっても影響されることが明らかになった。 2)選択性の発現機構を究明するために、Mn(TPP)^+,MoO(TPP)^+ならびにIn(TPP)^+の各種陰イオン種との塩の1,2-ジクロロエタン溶液の伝導度を測定した。その結果、陰イオンキャリヤ-による溶媒抽出における陰イオン選択性は、有機相におけるキャリヤ-と陰イオン間の結合性と、単独陰イオンの水-有機相間の分配性とが重畳されることにより定まることが半定量的に解明された。 3)MoO(TPP)^+がF^-に高い選択性を示すのみならず、MoO(TPP)Fの吸収スペクトルが他の陰イオン塩の場合とかなり異なることに注目して、F^-の抽出比色分析法の開発を行なった。本法よれば、1ppm以下のF^-の定量が可能であるほか、Cl^-,NO_3^-およびSO_4^<2->など天然界に多く存在する陰イオンが100倍モル程度共存していても、ほとんど妨害を受けないことがわかった。
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