研究概要 |
先に我々はエステル基がオルト位アルコキシル基を芳香族求核置換反応に対して著しく活性化することを見いだし、ビアリール誘導体の合成に有用であることを報告してきた。本研究では、求核試薬の種類や反応条件によってはベンゼン環への1,6-または1,4-共役付加が起こることを見いだし、新規な芳香族合成反応への応用を目的として2-メトキシ安息香酸エステルに対する種々のグリニヤール試薬、有機リチウム試薬との反応を詳細に検討した。結果の概要は以下のようである。 1.電子供与性の高いカルバニオン種との反応では基質エステルへの一電子移動が優先し、ラジカルカップリングにより共役付加生成物を与える。カルバニオン種による共役付加/求核置換の割合は、ベンジル>アリル>>tert-ブチル>イソプロピル>n-ブチル>フェニル、の順であり、一般に認められているカルバニオン種の酸化-還元電位の順位に一致する。また、金属に関しては、Li>Mgであった。 2.HMPAやTHFなどのカチオン配位性溶媒は共役付加を助長するのに対して、ベンゼンは求核置換を助長する。 3.生成ラジカルが高反応性の場合、ラジカル再結合が溶媒ケージ内で起こり、1,4-付加物を、また、安定ラジカルの場合はケージ外での再結合により1,6-付加物が優先する。 4.共役付加にはオルト位アルコキシル基の存在を必要としない。共役付加生成物のシクロヘキサジエン骨格は穏和な条件で容易に芳香環へ変換できる。従って、本反応は全体として、カルボキシル基のオルト、パラ位に置換基を導入する方法を開拓したことに相当する。 以上、新規な芳香族合成反応において所期の目的をほぼ達成する成果が得られた。
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