研究概要 |
N-アルキル置換エチレンジアミン(en)ニッケル錯体はメタノール中,温和な条件下でアルドースに対して触媒的作用をおよぼし,相当するC-2エピマ-を速やかに高効率で生成させる.糖質は多数のキラル中心を有していることから他のキラルな分子との間で,キラリテイーに基づく相互作用に由来した分子認識が発現され得る.この様な分子認識能が,糖質の変換反応においても,保持されたまま進行されるならば,反応の選択性の発現が期待でき,さらに高付加値を備えた酵素反応的側面が増すと考えられる.演者は,C-置換基のかさ高さ,自由の異なる3種の光学活性なエチレンジアミン誘導体を合成し,それらを配位子としたNi(II)錯体によるD-グルコース(Clc)とD-マンノース(Man)間のC-エピ化反応,を試みた.その際,配位子のキラリテイーに応じた反応諸因子(反応平衡値,反応速度)の差異の発現を目的として,反応溶媒(MeOH,EtOH)による影響や反応温度依存性という錯体の安定性に対する外的要因に着目した観点から調査,検討を行った.その結果,主にEtOH系にて,期待した上記の反応諸因子の差異が認められ,ジアミンのC-置換基のかさ高さが大きく,同時にその自由度が低いほど,即ち,置換基として導入された基がPhenyl>Benzyl>Methylの順にその差異が顕著に現れた.反応平衡値においては,その立体配置がR>rac>Sの順に熱力学的に不安定なエピマ-であるMan側により偏った値を呈しており,特にR系でのManの収率は,熱力学的に見積もられる平衡値〔Glc〕:〔Man〕=70:30における値よりも大幅に向上した値を示しており,この系の有効性が示唆されている.また,反応速度においては,平衡到達時間の短さがS>rac>Rの順であることが認められた.
|