研究概要 |
1 キラルなアゾベンゼンの異性化反応 不斉置換基を持つアゾベンゼンを合成し、光照射による分子楕円率の変化を測定した。310nm付近のアゾベンゼンの吸収帯を光励起すると、光異性化が観測され、その量子収率は約0.2であった。アゾベンゼンの吸収付近では顕著な分子楕円率がみられなかったが、フェニル基吸収の近傍ではおよそ1mdegの分子楕円率があり、この分子ではむしろフェニル基の吸収が支配的であることが分かった。 2 スルホキシドの不斉反転反応 光誘起不斉反転色素として、(+)-R-p-トリル-1-ピレニルスルフォキシド(R-TPS)を合成した。合成したS-TPSのモル吸光係数は353.2nmにおいてε=3.68×10^4M^<-1>cm^<-1>、またモル楕円率[θ]=6×10^3deg m^2mol^<-1>と求められた.トルエン,クロロホルム,アセトニトリル,ベンゼン)を用いてS-TPSの溶液365nmの光を照射した.ところ、光不斉反転によるセラミ化が観測され、その量子収率は約0.2であった。一方、ポリスチレン、PMMAにドープしたR-TPSの反応の量子収率もほぼ溶液中と同じであり、スルホキシドの不斉反転のような小さな分子運動でおこる反応は、ポリマーのような自由体積の小さな媒体中でも効率よくおこることが分かった。この固体試料を20Kに冷却し、色素レーザーを照射し、光化学ホールバーニングをおこなったところ、ホール形成が観測された。そのホール形成の量子収率は10-7程度であり、極低温におけるマトリックスの影響か、不斉反転を経ない光物理過程によることが考えられる。
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