研究概要 |
高分子・繊維材料の結晶部はもとより、非晶部を原子座標レベルで解析できる新しい重水素固体NMR法を開発し、特に、側鎖部分を中心とする原子座標レベルでの非晶構造ならびに、ダイナミックスを解明し、以下の実績が得られた。 固体重水素NMRスペクトルは、分子の立体構造や分子運動の様式・速度に敏感であるとともに、2Hラベリングが主鎖・側鎖の任意の箇所で可能なため、多くの構造、運動情報が得られる。本研究では絹フィブロインに於いて、構造及び運動様式の大きく異なる3つのサイト(Gly主鎖CH2,Ala側鎖CH3,Tyr側鎖ring)を重水素化することを試みた。得られた2Hラベル絹の配向試料について固体重水素NMR解析を行い、従来の絹の固体13Cおよび15NNMR解析の結果と合わせることにより絹の原子レベルでの解析を行った。得られた〔3,3,3-2H3〕Ala、〔2,2-2H2〕Gly、〔2,3,5,6-2H4〕Tyrラベル絹フィブロインの粉末試料の固体重水素NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルシミュレーションを行ったところ、AlaのメチルはC3軸についての速い回転運動に加え、Cα-Cβ軸自体のLibration運動が存在していること、また、GlyのCα-2Hは絹フィブロイン中で非常に運動が制限されており、Libration運動が存在しているのみであった。さらに、Tyrの側鎖の芳香環は運動の制限された成分と、フリップフロップ運動をした成分とが混在していることが分かった。また、この固体重水素NMRから得られた配向角は、固体13C、15NMRの結果と組み合わせることにより、主鎖の内部回転角(Φ,Ψ)やTyrの側鎖の回転角(χ^1,χ^2)の制限に用いることが出来、その結果、固体NMRから、絹フィブロインの主鎖、ならびに側鎖のコンフォメーションを定量的に求めることが出来た。
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