研究概要 |
病原の伸展抑制に働く因子は防御遺伝子群の産物であり,特異的抵抗性遺伝子産物は病原の非病原性遺伝子産物を特異的に認識するレセプターとしての機能と,この認識を通じて防御遺伝子群の発現を誘導する機能をもつものと考えられる.本研究はイネ葉身に対するネクロシス誘導,培養細胞に対するフェニルプロパノイド生合成を指標として,いもち病菌が分泌するポリペプチド(エリシター)を単離,精製し,その構造を明らかにするとともに,ネクロシス誘導の品種特異性について検討することを目的として行った. イネプロトプラストの破壊を指標として得られたタンパク質様物質は細細胞膜に作用点をもち,細胞壁には直接作用しない.葉身組織細胞の細胞膜にこの物質を作用させることによるネクロシス誘導活性の簡便なアッセ-法として加圧処理法が確立された.ネクロシス誘導因子をいもち病菌培養濾液中に検索した結果,分子サイズ約20kDaのポリペプチドであることが明らかにされた.電気泳動による分析では数本のタンパク質のバンドとして認められ,さらに精製を進める必要がある.イネのいもち病菌に対する過敏感反応についてイネ培養細胞といもち病菌培養濾液成分との反応系を用いて検討した.いもち病菌培養濾液成分によってイネの懸濁培養カルスの局所的な細胞死,フェニルプロパノイド生合成系の活性化が誘導された.エバンスブルーの細胞内への取り込みを指標にすることによって,いもち病菌培養濾液のトリクロル酢酸沈殿画分(TCAp)処理後1時間以内にカルス塊周辺の細胞死が,48時間後にはカルスの褐変化観察された.TCApの培養系への処理によりPAL,POXの一時的な活性増,p-クマル酸集積が誘導された.いもち病菌培養濾液の逆相クロマトグラフィーによる画分についてカルスの褐変化,PAL活性化の誘導因子は同一であった.
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