研究概要 |
植物細胞の生長は,細胞の体積増加,細胞の吸水に着目して次のようにあらわせる。 G=m(Ψp-Y)(1) g=L(Ψo-Ψw)(2) (G:相対生長(体積増加)速度,m:細胞壁の伸展係数,Ψp:膨圧,Y:降伏圧,g:成長細胞の相対吸水速度,L:水伝導度,Ψo:水供給部の水ポテンシャル,Ψw:成長細胞の水ポテンシャル) 本研究は重力屈性を欠くエンドウ突然変異種ageotropumを供試し,根の周囲の空気湿度を調節し,水分屈性において根の偏性長がおこる機構を上の式に基づいて解析した。その結果,以下のことが明らかとなった。 (1)水分屈性は空気湿度勾配の小さい条件ではおこらず,空気湿度勾配がある程度大きくなるとおこった。根端にワセリンを塗布すると水分屈性が認められなくなることから,根は根端で空気湿度差を感知することがわかった。 (2)細胞壁の伸展係数は伸長部が伸長の完了した成熟部に比較して大きく,伸長部では低湿度条件に面した組織が高湿度条件に面した組織に比較して大きかった。しかし、膨圧と降伏圧には伸長部の両組織間に違いがなかった。したがって,伸長部における両組織の体積増加速度の相違は細胞壁の伸展係数の相違によることになる。 (3)伸長部の水ポテンシャルは成熟部に比べて低かった。しかし,伸長部と成熟部の水ポテンシャル差は高湿度条件と低湿度条件に面した根の組織の間に相違がなかった。したがって,(2)式の(Ψo-Ψw)には違いがないので,伸長部における両組織の細胞の吸水速度の相違には水伝導度が関係していることになる。 以上の結果から、水分屈性は湿度差が根端で感知され,これによって細胞壁の伸展係数と水伝導度に影響を及ぼす物質が伸長組織に送られることによっておこると考えられた。
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