リンゴ果実の加工時に発生する褐変反応を抑制する機構の解明に、果肉から誘導したカルスや懸濁細胞などの培養組織の利用の可能性を検討しようとした。そのため果肉からのカルスおよび懸濁細胞の誘導条件を寒天培地、ろ紙培地および液体培地を用いて検討を行い、IBA2.0mg/BA3.0mg/lを添加したLS培地を用いることにより、リンゴ果肉からカルスおよび懸濁細胞を誘導できることを明らかにした。寒天培地では最大カルス量に達するのに1.5ヵ月要したが、液体振盪培養では1ヵ月程度で最大量に達した。これらの培養組織を用いて、別の圃場散布実験により褐変抑制効果が認められたカルシウムおよび窒素の褐変制御に及ぼす影響について調査した。その結果リンゴ果肉由来のカルス、および懸濁細胞のいずれにおいても褐変制御効果が認められた。カルシウムはカルスの生育をほとんど阻害することなく褐変を抑制したが、高濃度では生育の抑制とともに褐変も助長した。アンモニア態質素もカルスの褐変抑制効果がみられたが、カルスの生育もかなり抑制された。反対に硝酸態窒素には褐変抑制効果が認められなかったが、生育は良好であった。リンゴ果汁の褐変抑制に効果がみられたアスコルビン酸、システイン、グルタチオンなどはカルスの生育中を著しく阻害し褐変抑制効果も見られなかった。また圃場でリンゴ生育に塩化カルシウムや硫酸アンモニウムを散布すると果汁の褐変しにくい果実が生産されたが、その抑制効果の機構の解明までには至らなかった。
|