研究概要 |
異数体植物では,減数分裂における相同染色体の生殖細胞への分配が不均等となり,そのためしばしば配偶子稔性が低下する.異数体植物のこの性質は,無核ブドウの生産に利用できると考えられる.本研究では,新しいタイプの無核ブドウとしての異数体ブドウを育成するために,三倍体ブドウを交配親として利用できるかどうかを検討した.ショ糖10g/l^<-1>,ホウ酸10mg/l^<-1>を含む寒天培地(寒天1g/l^<-1>)上で,三倍体153系統の花粉の発芽テストを行ったところ,花粉の発芽率は0〜3.19%であった.また,三倍体145系統の花房に袋掛けをして自家交配を行ったところ,含核果率は0〜1.60%であった.三倍体と二倍体,および三倍体と四倍体との正逆交配において,胚珠・胚培養(未熟種子培養)を援用し,実生の育成を試みたところ,全部で107個体の実生が得られた.しかし,実生が得られない交配組み合わせがあり,実生が獲得できた場合でも,獲得実生の交配花数に対する割合は0.07〜1.37%と非常に低かった.また,三倍体と二倍体,および三倍体と四倍体との正逆交配における実生獲得率をそれぞれまとめて比較すると,いずれの正逆交配においても三倍体を花粉親とした場合に,実生の獲得率が高かった.硬核期後期の交配果房に対しパラクロルフェノキシ酢酸(トマトトーン)75mg/l^<-1>を処理し,実生獲得率の向上を図ったが,効果はなかった.染色体数が確認できた幼植物体は,2n=48,51,53,68,69,79,92の異数体であった.これら一連の結果より,三倍体ブドウは配偶子稔性が非常に低いものの,異数体ブドウの育種親として利用できることが示唆された.三倍体を用いた人為交配より異数体を育成したのは,本研究が最初である.
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