研究概要 |
イネ品種朝日及びヒメノモチからの突然変異イネを用いて品種・レース特異性の解明を試みた。関口病斑の80%メタノール抽出物中には,ファイトアレキシンであるサクラネチンが蓄積しており,イネいもち病菌の胞子発芽を抑制した。しかし、イネごま葉枯れ病菌の発芽は抑制せず,抗菌活性に特異性が見られた。一方、親和性いもち病菌レースの胞子発芽液のメタノール可溶部を関口朝日葉身に前処理しておくとその後に接種した非親和性レースによる関口病斑形成が遅延した。病斑形成の遅延は、病斑内の抗菌物質やニンヒドリン陽性物質の蓄積抑制としても観察された。病原性を異にする数菌株を用いて同様に実験を行ったところ,いずれの菌株の場合もメタノール可溶部に非親和性レースによる関口病斑形成の抑制作用のあることが判明した。このことは、いもち病菌が胞子発芽時に抵抗性の現れである関口病斑の形成を抑制する因子を生成していることが考えられた。 一方、発芽液から部分純化した毒素をイネ品種関口朝日に処理後、電顕観察した。その結果、毒素の影響は処理後1時間で認められ、それはミトコンドリアにおける基質の電子密度の低下やクリステ数の現象として認められた。その他の器官では変性はみられなかった。このミトコンドリア変性は,宿主特異的に認められた。さらに、いもち病菌を接種したイネ細胞においてもミトコンドリア変性がいもち病菌との親和関係に関係なく認められた。 以上のことより、いもち病菌は感染初期に毒素を放出し、宿主植物との間に基本的親和性を成立させるが、この成立には宿主ミトコンドリアの変性が深く関与していることが明らかとなった。
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