本研究は 鉄欠乏条件下でイネ科植物の根より分泌され根圏の鉄を可溶化吸収する鉄輸送活性物質ムギネ酸類の生合成経路の解明を目指したものである。 最初にグルコースからムギネ酸への生合成経路を調べる実験において^<14>C-グルコースが急速にムギネ酸類へ合成され、その速度はTCA回路の有機酸類やタンパク合成アミノ酸と同程度以上であることが示された。また、炭素の放射性同位体^<14>C又は、安定同位体^<13>Cの標識位置を変えたグルコースの根への投与実験の結果、グルコースの6つの炭素いずれもムギネ酸分子に取り込まれることが示された。 また^<14>C-ホモセリンの投与実験の結果は、ホモセリンがムギネ酸の前駆体ではないことを示唆した。さらに、イオウ代謝とムギネ酸生合成の関係を調べる実験において、グルコースはホモセリンを経由せずメチオニンとなりムギネ酸に合成されることが示唆された。これらの研究過程でグリセロールが速やかにムギネ酸へ変換されることを把握できたことは有意義であった。代謝阻害剤を用いた実験において、DTNB、PCMB、βシアノアラニンがメチオンの^<14>Cのムギネ酸への取り込みを促進するという興味深い知見も得た。 酸素生成の前段階として鉄欠乏オオムギ根の酵素阻抽出液(無細胞抽出系)を調製し、代謝実験を行った。その結果、ホモシステインが無細胞抽出系でメチオニンの^<14>Cのムギネ酸への取り込みを強く抑制するとの結果を得た。このことはホモシステインがムギネ酸合成系に対しメチオニンのアナログとして拮抗阻害する可能性を示唆している。これは、今後の酵素精製の際に利用しうる有益な知見である。
|