研究概要 |
蛋白質中のArg残基をCa2^+依存的に脱イミノ化しCit残基に変換するPeptidylarginine deiminase(PAD)にはアイソフォームtype I,II,IIIが存在する。これらの内typeIとIIIは表皮・毛嚢に特異的であるが、その酵素化学的性質は殆ど不明である。先に我々は、新生児ラット表皮からPADtypeIおよびIIIのcDNAクローニングに成功し、その全一次構造を決定した。本研究では、未だ不明のPADtypeIおよびIIIの酵素化学的諸性質を明らかにするため、これらcDNAの大腸菌発現系と発現酵素の精製法を確立した。PADtypeI,IIIcDNAの翻訳領域にフレームが合うよう制限酵素EcoRIならびにHindIIIサイトを付与したプライマーを合成、上述cDNAを鋳型としてPCRにより翻訳領域を増幅、この増幅DNAを発現ベクターpKK223-3のEcoRI-HindIIIサイト間に挿入した。PCR増幅に伴う塩基変異がそれぞれ3カ所存在したが、これらはもとのcDNAと入れ替えることで解決した。本発現ベクターは我々が開発したTwo-Cistron発現ベクターであり、IPTGにより菌体可溶性全蛋白質の約5%を誘導合成させることができた。つぎに発現酵素の精製は、30-50%硫安塩析、無坦体等電点電気泳動法、ついで大豆Kunitz型trypsin inhibitorをリガンドとする親和性クロマトグラフィーによりほぼ単一まで純化する方法を確立した。これらの精製組換え酵素についてその酵素化学的諸性質を調べた。特に、表皮ならびに毛嚢ケラチン結合蛋白質として知られるフィラグリンおよびトリコヒアリンに対する反応性について検討した結果、PADtypeIはフィラグリンに対し、またtypeIIIはトリコヒアリンに対し極めて高い反応性を示し、さらにこれらの蛋白質は修飾に伴いトランスグルタミナーゼによる架橋反応が著しく促進されることが見出された。これらの知見は上記PADの機能を推測する上で極めて重要な発見である。さらに本研究ではPADtypeI,III遺伝子のエキソンマップを解析し、両遺伝子がすでに明らかにしているPADtypeII遺伝子と同様16個のエキソンから構成されることが判った。現在、各ドメイン毎の大腸菌発現系を構築し、発現ドメイン蛋白質の機能解析を進めているが、今後各機能ドメインを相互交換し高機能キメラ酵素を創製したい。
|