研究概要 |
昆虫の変態過程に伴う酵素活性の変動機構を追求することは、生物学的現象に含まれる生化学的反応をより直接的且つ本質的に研究することになると思われる。特に、酸化酵素、フェノールオキシダーゼは、昆虫外皮の硬化と着色に関与し、変態の形態学に密接な関わりを持つのみならず、生体防御にも関与している重要な酵素である。 また、昆虫変態過程におけるフェノールオキシダーゼ活性発現の調節機構の解明は昆虫の変態を分子レベルで理解する糸口を与えることが考えられる。その研究目的のために、変態過程におけるフェノールオキシダーゼ活性の変動が顕著であるイエバエ(Musca domestica L.)を研究材料として用いた。 各変態過程(孵化→羽化)のイエバエ抽出液を酵素活性と抗体反応性の両方で詳細に調べた結果、イエバエ変態過程においては、フェノールオキシダーゼは常にその前駆体であるプロフェノールオキシダーゼとして存在するが、特に前蛹期においてのみ、プロフェノールオキシダーゼよりも、されに安定な前駆体(ラテントフェノールオキシダーゼ複合体)として存在することが明らかとなった。さらに、羽化直前のフェノールオキシダーゼ活性が見かけ上低下しているのは、その時期に内因性フェノールオキシダーゼインヒビターが共存するためであることも明らかとなった。また、イエバエ幼虫と蛹から各々プロフェノールオキシダーゼを精製し、その特性を調べた。その分子量は共に145,000であり、ラテントフェノールオキシダーゼ複合体(分子量178,000)より低分子であり、そのフェノールオキシダーゼ(分子量320,000)への活性化はプロフェノールオキシダーゼ分子の解離会合によるものであることが推察された。加えて、イエバエのフェノールオキシダーゼインヒビターの一次構造を明らかにすると同時に、このインヒビターが他の昆虫由来フェノールオキシダーゼに対しても強力な阻害剤であることを明らかにした。また、その研究に付随して、コウカアブ幼虫からフェノールオキシダーゼを精製し、その特性を調べた。
|