研究概要 |
ウナギ目仔魚が溶存態有機物を栄養源の一部にしている可能性が指摘されている。本研究はウナギ仔魚による溶存態有機物の取り込みと代謝を放射性同位元素(^<14>C)や微小コロイド粒子(甲イカ墨汁粒子)を用いて明らかにし,その栄養源としての意義について検討することを目的とした。 実験材料として,茨城県大洗海岸地先で採集されたマアナゴの仔魚(最大伸長期のレプトケファルス)と変態直後の稚魚を用いた。 ^<14>Cで標識したグリシンを30μ1/1の濃度で溶かした海水中でマアナゴ仔魚を1,2,4,6,24,48時間飼育し,それぞれの飼育期間中に仔魚により吸収およびCO_2として排出された^<14>C量を測定した。供試魚に吸収,あるいはCO2として排出された放射活性は,いずれも飼育時間に伴い上昇したことから,マアナゴの仔魚および変態直後の稚魚は海水からの溶存態有機物を取り込み,代謝するものと考えられた。魚体内に吸収された^<14>C量と呼吸で排出された^<14>C量を加えた量を供試魚による全取り込み量とすれば,乾燥重量当たりの全取り込み量は仔魚と稚魚はほぼ同様の値(仔魚:74651cpm/日,稚魚:93015cpm/日)となった。これらの値を供試魚の飲水量に換算すれば200〜300μl(/日)となり,通常の海産魚類仔稚が浸透圧調節のために飲む海水量にほぼ匹敵する。ウナギ目仔魚は十分な浸透圧調節能力をもたないといわれていることから,仔魚の飲水は浸透圧調節よりも,むしろ栄養吸収,すなわち栄養源としての溶存態有機物の吸収に関与するものと考えられる。 150μCi/lの^<14>C-グリシンを溶かした海水で0.5,1,4,24時間飼育したマアナゴ仔魚および稚魚についてラジオオートグラフを作成し,溶存態有機物の取り込み経路を検討した。放射活性は消化管内と消化管上皮で強かったことから,溶存態有機物の主要な取り込み経路が消化管であり,これまで言われてきたような体表からの取り込みは多くないものと考えられた。このことは甲イカの墨汁コロイドを用いた組織学的な検討によっても支持された。
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