研究概要 |
マアジ筋肉エキス成分のブリ若魚に対する摂餌刺激効果及び,味覚器・嗅覚器に対する刺激効果を調べた.普通筋の水抽出エキスを分画分子量10,000のフィルターで限外濾過し,濾過液を陰イオン交換体DEAE-Sephadex A-25(ph5.5)及び陽イオン交換体CM-Sephadex C-25(ph6.5)のカラムにかけて分画し,各画分の成分をデンプンペレットに添加して魚に投与後1分以内の摂取量を調べた.また,エキス成分に対する味覚神経応答・嗅球誘起脳波を調べた. その結果,陰イオン交換体吸着区に強い摂餌刺激効果が認められた.そこで,陰イオン交換体吸着区を,0.2M及び0.6M NaClを用い,2段階の濃度で溶離したところ,0.2M区はほとんど摂餌刺激効果がなく,0.6M区に比較的強い,しかし0.6M NaCl単独処理の場合より弱い効果が認められた.一方,陽イオン交換体処理では,吸着区には刺激効果は認められず,非吸着区に未処理エキスに近い効果がみられた.これらの結果から,ブリ若魚に対するマアジ筋肉水抽出エキスの摂餌刺激効果は複数の成分によって発現すること,陰イオン交換体吸着区に主要な成分が含まれること等が明らかになった.化学分析の結果,陰イオン交換体吸着区の主要な成分として,イノシン酸及び乳酸が示唆された.味覚器及び嗅覚器応答の生理実験では,いずれの感覚器も調べたイオン交換体処理各画分に対して感受性を示した.しかし,各画分の刺激閾値及び高い濃度での相対的応答値は,両感覚器で差異が認められた.これは,エキス成分を個別に比較したときにより明瞭に認められた.アミノ酸に対しては概して嗅覚器の感度が高く,AMP,IMP等のヌクレオチドや乳酸には味覚器の方が高いことが判明した.とくに,今回の摂餌刺激実験においてマアジ筋肉エキスの重要な有効成分とみられるIMP及び乳酸に対する味覚器の閾値は嗅覚器の閾値より2〜3桁低いところにあった. これらの知見は,摂餌行動における,嗅覚器の遠隔受容器としての,味覚器の餌の口内への取り込み・嚥下における化学的弁別の役割を示唆する.
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