補体系の中心成分であるC3は、活性化されるとC3a(9kDa)とC3b(180kDa)という2つのフラグメントに分解される。哺乳類においては、C3aはアナフィラトキンと呼ばれており、毛細血管透過性の亢進、肥満細胞からのヒスタミン放出刺激、平滑筋の収縮などの生物活性を示して炎症反応の惹起に重要な役割を果たすことが知られている。しかしながら、魚類においては、C3aの生成が確認されておらず、その生物活性も不明のままである。本研究は、コイのC3aの同定および精製、C3aの生物活性の検定および白血球上のC3aレセプターの同定を目的とした。コイ血清をザイモサンで処理して補体第二経路を活性化させた後、セルロファインGCL-300カラムを用いたゲルろ過によって分画した。各画分をSDS-PAGEおよび抗コイC3α鎖ウサギIgGを用いたウェスタンブロッティングによって分析したところ、抗コイC3α鎖で認識される13kDaのバンドが検出された。このバンドのN末端アミノ酸配列は、NativeコイC3のα鎖のそれと一致したことから、哺乳類のC3aと相同なフラグメントであることが確認された。このコイC3aを単離した後、コイ頭賢白血球に対する誘引活性をボイデンチャンバー法によって測定したところ、強い誘引活性が認められた。その活性は、哺乳類における最も強力な白血球走化性因子であるC5aの1/10にも達した。哺乳類のC3aには誘引活性は全く認められないので、コイC3aは、哺乳類のC3aとC5aの機能を兼ね備えていることが示唆された。さらに上記の結果は、コイ頭賢白血球上にはC3aレセプターが存在することを示していると同時に、そのレセプターは哺乳類のC5aレセプターとも機能的に類似していることが推察された。現在、コイC3aおよびC3aレセプターに特異的なモノクローナル抗体を作成しており、これらの抗体を用いて硬骨魚類の炎症反応におけるC3aと白血球との関連を精査する予定である。
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