研究概要 |
1.日本各地から入手した多数のヤマトシジミについて,水抽出液のマウス静脈投与による毒性を調べたところ,すべての検体が有毒で,毒性には雌雄差,季節差はないが多少の地域差が見られた。地域差は環境条件の違いと考えられるが,飼育実験結果により少なくとも環境水の塩分濃度の差によるものでないと判断された。他のシジミ類2種(マシジミ,セタシジミ)も,ヤマトシジミよりかなり弱いが有毒であることが判明した。3種シジミとも内臓は無毒,一部筋肉系部位のみが有毒で,ヤマトシジミでは足筋,マシジミでは水管,セタシジミでは外套筋の毒性が特に高かった。毒性を検索したシジミ類以外の12種二枚貝はすべて無毒であった。 2.ヤマトシジミ毒を疎水クロマト,ゲルろ過,疎水FPLC,イオン交換FPLCで精製し,毒は分子量25000,pl7.7の弱塩基性タンパク質であることを明らかにした。精製毒のLD_<50>(マウス静脈投与)は11μg/kgと毒性はきわめて強く,マウス致死活性の他に強い溶血活性を示したが,抗菌活性は認められなかった。マシジミおよびセタシジミの毒の単離には至らなかったが,安定性,クロマト挙動,強い溶血活性から,ヤマトシジミ毒と酷似したタンパク毒であると判断された。 3.上述のヤマトシジミ毒の精製法は煩雑で収率も悪かったので,精製法の改良を試み,赤血球膜ゴ-ストへの吸着・脱離,イオン交換FPLCというわずか2ステップの簡便な方法を考案した。この精製法はマシジミおよびセタシジミの毒にも適用できると推定される。 4.シジミ毒は食品衛生上の問題はないが,二枚貝では初めてのタンパク毒であることから学術的に興味深く,今後一次構造,薬理活性,生理的意義などの解明を試みたい。
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