研究概要 |
1.アメリカザリガニ,ケフサイソガニ,クロベンケイガニを淡水から全海水まで順応させた結果,塩分濃度の上昇に伴って遊離アミノ酸含量は顕著に上昇するが,D型アミノ酸ではいずれの種および組織でもD-Alaのみが著しく増加し,全Alaに対するD-Alaの占める比率も全海水では約50%にまで上昇した.これらのことから,D-Alaはこれら甲殻類の細胞内等浸透圧調節の主要なエフェクターであることが確認された, 2.秋に降河産卵回遊するモクズガニでは4-6月の個体よりも7-10月の個体の方がD-Ala含量が高く,全アラニンに対する比率もそれぞれ26および37%と,夏から秋に多くなっていた.これらを海水に順応させたところ,7-10月の個体の方が順応過程におけるD-Alaの上昇は大きく,全海水中でのD-Ala含量は秋に河口および海で捕獲した個体とほぼ一致していた.一方,体液のD-Ala含量はきわめて少なく,他の遊離アミノ酸およびベタイン類と共に,海水順応に伴ってほとんど増加を示さず,無機イオンの顕著な増加が認められた.これらのことから,モクズガニの降河回遊中に体液の浸透圧はほとんど無機イオンで調節され,筋肉等の組織においては45%以上が遊離アミノ酸等による等浸透圧調節に依存し,上記の他種と同様にD-Alaは主要なエフェクターと考えられた. 3.アメリカザリガニに対するD,L-Alaの投与実験,海水中での絶食実験から,D-Ala濃度は筋肉中で,厳密に調節されていることが明らかとなった. 4.モクズガニのD-Ala含量は体重および甲幅との相関を示さず,また雌雄による差も認められず,発生の所期段階から存在することが明らかになった.
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