研究概要 |
本研究の目的は,大規模畑作地帯の農家について,単なる集計的な規模拡大という視点のみならず,個々の農家の労働・土地生産性や要素賦存条件を考慮して,早くから貿易自由化にさらされてきた畑作農業の調整過程を再検討するものである.この場合調整過程を,生産要素の売買によるストック調整と,生産要素の貸借によるフロー調整という面から捉えた.実際の調整過程は,農外部門のみならず農家自身が生産要素の需要者・供給者となって,ストック調整とフロー調整を相互に補完するように行ってきたと考えられる.これを実証するため,A町B地区の農家を対象して,各農家の経営構造と畑作物単収からなる35年間の「畑作データ・ファイル」を作成して,畑作の動態分析を行った. 高度成長期の離農が多発する過程では,土地/労働比率に恵まれた労働生産性の高い農家からは離農は発生せず,積極的な土地のストック調整が行われた.この背後には雇用労働と機械の共同利用に依存したフロー調整があった.低成長期になると,規模拡大のペースは鈍化するが,機械のストック調整,土地のフロー調整は活発化して,規模間格差は加速的に拡大した.つまり,ストック調整とフロー調整とは相互に補完的に行われていたのである.近年,経営規模の分化に伴って,野菜作を積極的に主作物として位置づける農家が,小規模農家のみならず規模拡大指向農家にも目立ってきており,新たな段階におけるフロー調整(機械,労働)の必要性が高まっている.また,栽培技術の普及に伴って,とくにてんさい単収は正規分布から外れて,より歪度と尖度が大きくなってきた.これは野菜作を導入して新たな作付け構成の段階における,栽培技術水準の分化が進行していることを示唆している.経営規模,栽培技術水準の分化に対応した,ストック調整とフロー調整が必要な時期にきている.
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