研究概要 |
はじめに、猫白血病ウイルス(FeLV)感染による腫瘍化に伴う癌遺伝子の変化を検討した。猫の胸腺型リンパ種症例9例のうち5例にmyc遺伝子領域へのFeLVの組み込みが検出され、さらにそのほとんどの例において、fit-1、bmi-1およびpim-1領域へのEelvの組み込みが認められ、同一症例において複数の癌遺伝子の変化が認められた。また、FeLV LTRの塩基配列の解析の結果、胸腺型リンパ種ではエンハンサー領域、または急性骨髄性白血病ではupstream region of enhanncer(URE)領域において30-70bpの繰り返し構造が認められ、それらが腫瘍化の標的細胞決定に重要な役割を果していることが示唆された。また、リンパ系腫瘍細胞の染色体異常の解析のため、猫の免疫グロブリンおよびT細胞レセプター遺伝子の染色体マッピングを行い、それぞれが存在する染色体を同定した:IgH(FCA B3),IgL kappa(FCA A3),IgL lambda(FCA D3),TCR alpha(FCA B3),TCR beta(FCA A2),TCR gamma(FCA A2),TCR delta(FCA B3)。一方、癌抑制遺伝子の基礎的検討として、猫のp21WAF1,p27Kipl,p16MTS1,P15MTS2,IRF-1の各遺伝子のクローンを単離し、それらの塩基配列を決定した。猫のさまざまな腫瘍におけるこれら遺伝子の構造および発現の変化を検討したが、現在のところ、腫瘍化と関連すると思われる変化は認められていない。また、p53癌抑制遺伝子の変化をPCR-SSCPおよび塩基配列の決定によって解析したところ、犬の骨肉種、大腸癌、急性白血病、リンパ腫などの多彩な悪性腫瘍の70%以上の症例において、p53の機能を不活化することが予想される変異が検出され、その腫瘍化における重要性が強く示唆された。
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