研究概要 |
本研究で取り上げた牛の肝臓の奇妙な管状病変は,初発例が12年以上前に記録されていた事が調査の結果明かとなった。この管状硬化性病変は,九州,四国,本州では主として黒毛和種,北海道では乳用去勢雄にかなり頻繁に見られ,糸くず塊,短ファスナ-状,細目の肥厚性胆管炎様病変などと形容され,肝臓の表面にも割面にも隆起・突出し,肝臓各葉の辺緑部に目立つ傾向があった。少数例に肝蛭成虫寄生あるいは慢性肥厚性胆管炎が見られたが,多くが肝蛭症に特徴的な胆管を欠き,肝臓以外の変化は乏しく,罹患牛は栄養状態も良く,肉質も高く評価されていた。 多くの場合病変は線維性に拡大した小葉間質の門脈枝を中心に生じていたが,動脈系も同時に侵され,侵された血管を判定するのが困難なこともあった。いずれの症例でも絨毛形成性内膜肥厚,夥しい好酸球およびリンパ球の浸潤,血管中膜の平滑筋の著しい増生による壁の肥厚が特徴的であった。内腔の狭窄や閉塞,再疎通も見られた。好酸球よりリンパ球の浸潤が目立つ症例もあった。 この病変は,寄生虫性血栓静脈炎に始まる事が示唆されたが,まだ初期病変の解析が不十分で,どんな寄生虫によるものかは断定できない。少数ながら肝蛭病変と本病変が共存していた症例もあり,何らかの形での肝蛭の関与は否定しがたいが病理発生の解明には,さらなる初期病変の収集・解析が必要である。
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