研究概要 |
中枢神経機能発達におけるC-KITチロシンキナーゼレセプターの役割について電気生理学的および形態学的に検討した。 生後24時間以内のBALB/Cマウスに抗C-KITチロシンキナーゼレセプターモノクローナル抗体(ACK2)を処置し、14日間飼育した。対照群には生理食塩水を用いて同様の処置を行った。ACK2処置群は既に報告したように、消化機能の異常のため体格的な発育不良が観察されたが、生後7日目以降になると対照群に対して自発運動の減少が顕著となった。対照群およびACK2群のマウスをエーテル麻酔下に断頭し、視床下部,海馬,大脳皮質,小脳より神経細胞をプロテアーゼを用いて急性単離しパッチクランプ法により膜電流を測定した。また9日目対照群小脳プルキンエ細胞をACK2の存在下および非存在下で培養し樹状突起の伸張状況を観察した。 急性単離標本で得られたglutamate応答,GABA応答,Gly応答は対照群とACK2群で各伝達物質電流応答のcarrier ion,電流-電圧関係,用量-反応関係に有意な差は認められなかった。またglutamate応答を構成するNMDA型AMPA/kainate型応答の割合にも両群で差は認められなかった。一方、対照群由来の小脳Purkinje細胞を培養し、ACK2を処置すると樹状突起の伸張に抑制傾向が見られた。 以上より中枢神経機能の生後発達においてC-KITチロシンキナーゼレセプターは神経細胞体の受容体サブタイプの構成にはあまり影響しなかったが、樹状突起の伸張に影響していることが示唆された。ACK2処置マウスに見られた弱い運動失調はC-KITチロシンキナーゼレセプター活性抑制によるニューロン間のシナプス結合の形成不全がその主な原因である可能性が示唆された。このことは生後発達における小脳Purkinje細胞と篭細胞間のネットワーク形成に同チロシンキナーゼレセプターが重要な役割を果たしているという解剖学的報告と一致して興味深い。
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