研究概要 |
本年度の研究からマウス骨髄幹細胞由来マスト細胞(以下BMMCと略す)の温度依存性外向き電流について以下のことが明らかになった。 (1)24から36度の範囲で温度上昇によって可逆的に、また反復して外向き電流が活性化された。Q_<10>値は、11.3±6・8(mean±SD,n=6)で温度依存性が極めて高いことがわかった。 (2)細胞内外溶液のCl,K,Naイオン組成を変えても電流振幅、逆転電位とも一定の変化がなかった。細胞内pHを7.3から5.5に低下させると活性化電位が0から約-40mVへと過分極側に移動した。細胞外pHを6.0から8.7の間で上昇させると活性化電位は過分極側に移動した。逆転電位は内外のpHの差に比例し、他のイオン濃度には依存しないことから、温度依存性の電流はプロトン(H^+)電流であると結論された。 (3)脱分極による活性化過程はsingle exponential curveに一致し、時定数は脱分極するほど、温度が高くなるほど、また外液のpHが高くなるほど小さくなった。 (4)細胞内溶液からATPを除去したりATPをATPγSで置換するとH^+電流は有意に(P<0.05)減少した。また細胞外ZnによってH^+電流は可逆的にブロックされた。 以上のように、BMMCは外向きH^+電流を有している。その高い温度依存性はAPTの分解によるエネルギーを必要とする活性化メカニズムを反映していると推定される。現在このようなH^+電流の報告はない。今回の実験で安定したH^+電流の測定には高濃度(120mM)細胞内bufferを要したことを考えると、BMMCには強力なbufferあるいはpH調節機構が内在していることが示唆される。BMMCは増殖・分化の良いモデル系であり、細胞周期や分化過程においてこのH^+電流がどのような役割を果たしているのかを更に解明していきたい。
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