研究概要 |
有毛部皮膚に見られる能動的血管拡張は,血管拡張神経を介するとも,発汗神経を介するとも言われている.報告者らは最近,皮膚血流のレザードップラー波形を分析し,発汗波と同期する一過性血管拡張反応が存在することを見出し,発汗活動と血管拡張反応との相同性から前者の可能性を示唆した.本研究では,微小電極法により得た皮膚交感神経活動(SSNA)を解析し,一過性結果拡張反応に対応する神経活動の存在を分析することにより,皮膚に特定の交感神経性血管拡張神経活動が存在するか否かを検討した.健康成人男子において,安静臥位で中性および暑熱環境下(室温28〜38℃)において,脛骨神経と腓骨神経からタングステン微小電極によりSSNAを導出し,それぞれの神経の支配領域である足底部および足背部において局所発汗量(換気カプセル法)と皮膚血流量(レーザードップラー法)を連続記録した.SSNAバーストのうち,2〜3秒の潜時で発汗波を伴うものを発汗神経バースト,2〜4秒の潜時で皮膚血流減少(血管収縮)を伴うものを血管収縮神経バースト,両者を伴うものを混合性バーストと同定し,足背部に見られる一過性血管拡張反応に先行するバーストの性質を分析した.軽度発汗時(室温28〜32℃)では,一過性血管拡張反応に先行するSSNAバーストは,その約90%が発汗神経バーストあるいは混合性バーストであり(58%と32%),約2%が血管収縮バーストであり,約8%には先行するバーストが認められなかった.一過性血管拡張反応に先行し,発汗反応も皮膚血管収縮反応も伴わないSSNAバーストは見出せなかった.以上の結果は,少なくとも軽度発汗時では,皮膚交感神経活動に属する特定の血管拡張神経活動は存在しないことを示唆する.高度発汗時については上述の分析が可能なため,リズムによる分析を試みているが方法論上の困難によりまだ結論には至っていない.
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