研究概要 |
コラゲナーゼによって単離したモルモット心室筋細胞にwhole-cellバッチクランプ法を適用し,活動電位およびNaチャネル電流を記録した。海洋毒sea anemone toxin II(ATX II)は,20-30nMでNaチャネル電流の不活性化を著しく抑制し,活動電位持続時間を2倍に延長した。Naチャネル電流を抑制することによって作用を示す抗不整脈薬リドカインやNaチャネルの特異的なブロッカーであるテトロドトキシンは,このAXT IIによって修飾されたNaチャネル電流を,正常のNaチャネル電流に比べ,低濃度で強く抑制した。これらの結果から,ATX IIはNaチャネルのキネティックスを変えるだけでなく,テトロドトキシンやリドカインに対する感受性を増加させることが示された。また,ATX IIにより修飾されたNa電流のリドカインによる抑制の機序にオ-ブンチャネルブロックが関与している可能性を示唆する結果が得られた。Naチャネルのmodel switching(速い不活性化を示すモードから遅い不活性化を示すモードへの転化)が最近明らかになっている。本研究の結果は,海洋毒によって修飾された不活性化の遅いNaチャネルにおいてmodel switchingが起こっている可能性を示唆するものであるので,この点を解明するため,また,リドカインによるオープンチャネルブロックを確認するために単一チャネルレベルでの解析に着手した。 本研究は,海洋毒によってNaチャネルの開閉機構を修飾しておき,このチャネルに対する抗不整脈薬の作用を調べることによって,抗不整脈薬の作用機序の詳細な解析が可能となることを示唆している。また,海洋毒と抗不整脈薬の相互作用を検討することによって,Naチャネル内における抗不整脈薬の結合部位と結合様式を明確にするうえでの手がかりが見いだされることが期待される。
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