研究概要 |
神経細胞死の機構に、グルタミン酸が深く関与することが報告されているが、詳細は不明である。in vivo低酸素負荷モデルは、虚血とは異なる海馬CA3および歯状回に神経細胞障害を誘導する特徴を持ち、低酸素による影響を比較的純粋に検討できる。そこで、このモデルを用い、NMDA,non-NMDA型グルタミン酸受容体や一酸化窒素合成酵素(NOS)阻害薬(順にMK-801,NBQX,NNA)の作用について神経薬理学的に解析し、脳虚血による神経細胞死において低酸素がどのように関与するかを解析した。 低酸素は、Fischer系雄性ラットを5%O_2,95%N_2,22℃に保ったチャンバーに30分間放置することにより負荷した。MK-801(3mg/kg,i.p.)は負荷の30分前に、NBQX(30mg/kg×3,i.p.)は負荷の15,5分前と10分後に、NNA(0.1,1.0または10mg/kg×4,i.p.)は負荷の5分,3,6,24時間後に投与した。経時的に脳切片を作製し、異常形態を示す神経細胞をヘマトキシリン・エオジン染色により判定し、その数を神経細胞障害の指標として定量的解析を行った。その結果、低酸素により誘導される神経細胞障害は、1)MK-801の投与により低酸素負荷1日および21日後に海馬歯状回において、2)NBQXの投与により低酸素負荷3日および21日後に海馬CA3および歯状回において、3)NNAの投与によりCA3および歯状回において、いずれも有意に抑制された。これらの結果は、低酸素負荷により引き起こされる神経細胞障害の機構は、NMDAおよびnon-NMDA型受容体やNOSが複合的に関与することを示唆した。さらにNMDAとnon-NMDA型受容体阻害薬の効果が、海馬領域内で異なっていたことは、神経細胞障害の発生の機序が異なる可能性を示唆した。
|