研究概要 |
脳から単離したフルクトース2,6二燐酸合成酵素のcDNA(RB7)は,不完全長であったが既存のどのアイソザイムにも属さない新しい遺伝子由来であった。我々は,RB7の完全長のcDNAを得る目的で3'-及び5'-RACEを行ったところ,塩基配列の異なる8種のisoformを単離した。これらのisoformの間では,酵素のN-末端及び触媒領域のアミノ酸配列は同じであったが,C-末端の配列が互いに異なっていた。サザンブロットの解析によって,このheterogeneityは単一遺伝子の択一的スプライシングによって生じることが示された。さらにこの可変領域のゲノムDNAの塩基配列を解析した結果,この領域は5つの独立したエクソンと2つの連続したエクソンとによって構成されていることが明らかになった。脳で観察される8種のisoformは,この7つのエクソンの使い分けによって生じていた。ノーザンブロットによる解析の結果,この遺伝子は骨格筋にも強く発現していた。しかし,組織特異的なスプライシングの機構が脳と異なっているために骨格筋には4種のisoformしか存在していなかった。 本酵素の心臓型および肝臓型のアイソザイムは,プロテインキナーゼによる燐酸化によって活性が調節されている。今回構造が明らかとなった脳型アイソザイムにも,プロテインキナーゼAやCの標的となるコンセンサス配列がC末端領域に存在していた。しかし各isoform間でアミノ酸配列が異なるために,そのコンセンサス配列の数及び位置は違っていた。このために8種のisoformは互いに酵素的挙動が異なることが予想された。脳や骨格筋は解糖系への依存性が異なる複数の細胞種からなっており、この依存性の違いがこれらisoformの酵素的挙動の違いで説明される可能性が示唆された。
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