研究概要 |
マウス神経芽腫瘍細胞Neuro2a細胞にGD3合成酵素遺伝子を導入すると細胞表面にそれまで発現していなかった糖鎖(GD3,GQ1b)が発現するように変化し、それに伴って細胞の形態も変化することを示してきた。これら糖鎖の発現と細胞の形態の変化との関連を明らかにするために、本研究においては糖転移酵素遺伝子発現および糖鎖の発現の制御可能な系のもとで糖鎖の変化と細胞の形態変化を経時的にとらえることを目的とした。 まず遺伝子発現の制御可能な系の確立した。その結果としてテトラサイクリンを用いる系がすぐれていることが判明した。この系ではテトラサイクリン存在下では遺伝子の発現が抑制されているが、テトラサイクリンを培養液中から取り除くことにより遺伝子の転写が開始される。この系のもとでをNeuro2a細胞中に制御可能な状態でGD3合成酵素遺伝子を導入し遺伝子を発現可能な状態にすると、GD3合成酵素遺伝子の発現そのものは4時間で最大になりその後この発現レベルを維持した。細胞の形態変化は遺伝子の発現後10日後より顕著に始まり20日目まで増加した。そこでGD3合成酵素遺伝子を発現可能な状態にした後4時間、3日、10日、20日目の細胞よりmRNAを調製しディファレンシアルディスプレー法で発現が変化する遺伝子を検索した。その結果少なくとも数種類の遺伝子の発現量がGD3合成酵素遺伝子の発現並びに糖鎖の発現に応じて経時的に増加することを見いだした。現在これらの遺伝子について解析を進めている。 さらに細胞表質層糖鎖の変化が神経細胞の形態や挙動にどの様に関わっているかを調べるためにNeuro2a細胞にフコース転移酵素遺伝子を導入した。この遺伝子導入細胞では主要なガングリオシドがフコシルGM1に変化した。親株が無血清状態でアクソン様の長い神経突起を伸長するのに対し、この細胞は無血清状態でデンドライト様の短い神経突起を多数伸長するようになっていた。この現象は可逆的であり、細胞表層からフコシルGM1を除くことにより親株と同様のアクソン様の突起を伸長するようになった。 これらの結果は細胞表層のガングリオシドが神経細胞の分化や機能に重要な役割を演じていることを強く示唆している。また糖鎖の機能を明らかにする上で糖転移酵素の細胞への導入、特に制御可能な状態での導入が非常に優れた方法であることを示している。
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