研究概要 |
脳動脈硬化の進展に動脈壁がどのような適応性のリモデリング反応をきたすかをモルフォメトリー的に検討した。臨床的および病理学的に脳血管疾患をみとめない38剖検脳について、脳の血管に定常圧(100mmHg)による灌流固定とバリウム注入を行い、形状を生理的状態に近づけながら固定保存した。各脳動脈の一定部位における横断面の光顕標本を作製し、コンピューターを用いた二次元画像解析装置にて各例各動脈標本の中膜、内膜、内弾性板領域、内腔の各面積を算出し、相互の相関性を検討、また内・中膜の壁厚を求め、各壁にかかる張力(T)を算出した。脳底部の内頚(ICA)および中大脳動脈(MCA)と脳実質内穿通枝動脈(PA)に共通して、狭窄度40%以下の動脈では、内膜肥厚の程度に応じて動脈径が拡大する有意な正の相関がみられた(ICA, p<0.05; MCA, p<0.05; PA, p<0.001)が、40%が壁の適応限界であり、それ以上の高度狭窄動脈例では相関性がみられず、適応しきれずに閉塞に向かう。脳血管写など臨床的かつ理学的な脳動脈硬化度の判定では、内膜肥厚があるにも関らず狭窄のない(すなわち硬化なしと誤判定される)適応性のstageが存在すること、またその適応破綻が急速な閉塞から脳梗塞を引き起こすこと等を念頭に、慎重に判定すべきであると警鐘したい。次にこれら適応性に拡大した動脈壁にかかるTを、壁厚が中膜だけの場合Tmと内・中膜の和すなわち実際の生体内で生じている場合Ti+mとで比較し求めると、ICAではTm, 15.8±7.5; Ti+m, 7.5±2.9, MCAはTm, 10.9±3.8; Ti+m, 6.5±3.4, PAはTm, 12.1±4.0; Ti+m, 7.0±1.6 (#)と、いずれも中膜のみで拡大した血管壁にかかるTmが極めて高値なのに対して、肥厚内膜の加わった壁への張力Ti+mは有意に低値かつ均等であった(それぞれp<0.005, p<0.005, p<0.001)。内膜肥厚は動脈硬化病変としては内腔狭窄へと向かう負の要素であるが、逆に、壁張力の観点からは生理的状態に保つ安定化要素の一部分として生体内で作用するpositiveな役割をも有する。(#):単位=x10^5dyn/cm^2
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