研究概要 |
〔目的〕造血組織(マウスでは骨髄と赤脾髄)において,マクロファージは赤芽球島を形成し,赤芽球造血の主要な微小環境を構築していると考えられる。今回,赤脾髄や肝臓マクロファージの一時的な消失をもたらすdichloromethylene diphosphonate封入リポソーム(MDP-liposomes)を脱血処理したマウスに静注し,赤芽球造血におけるマクロファージの役割を検討した。 〔方法〕フローサイトメトリー,免疫組織化学,造血前駆細胞定量法などで造血能を解析し,RT-PCR法で組織のサイトカインの発現を検索した。 〔結果〕脱血刺激のみでは脾臓での赤芽球造血は処置後1日目から見られ,処置後3日目での脾臓のBFU-E,CFU-E数は,それぞれ無処置マウスの7倍および30倍増加した。一方,脱血刺激+MDP-liposomes投与群では,骨髄のマクロファージは消失しなかったが,赤脾髄のF4/80^+マクロファージは,投与後1日目から完全に消失し,6日目から徐々に回復した。処置後3日目での脾臓のBFU-E数は2から3倍増加したが,CFU-E数の増加は全く起こらず,赤芽球造血は7日目頃から徐々に明らかとなった。また,脱血刺激群に比べ,stem cell factor(SCF),IL-6の発現低下がみられた。肝臓では,脾臓とは対照的に,クッパー細胞の消失が見られたにもかかわらず,赤芽球系髄外造血が処置後2日目より12日目まで継続して見られた。しかし肝臓では,erythropoietin(EPO)の発現はみられず,他のサイトカインの発現にも差はなかった。一方,脱血刺激+MDP-liposome投与群の腎臓では,コントロールの脱血刺激群でみられたEPO発現の一過性亢進が明瞭でなかった。この脱血刺激+MDP-liposome投与群にSCF,IL-6+SCF,EPOを投与した場合には,多量のEPOを投与した場合にのみ赤芽球造血の部分的な回復がみられた。 〔考察〕以上の結果は,MDP-liposomeによる脾臓の赤芽球造血の抑制には,脱血に対する腎のEPO産生の亢進の抑制のみならず,赤脾髄マクロファージ消失による間質の造血支持能の低下も一因であることを示唆している。
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