研究概要 |
腸管寄生線虫の自然排虫機構は,寄生虫の種によりエフェクター機構が異なることが分かってきた。排虫機構の全体像を解明するためには,直接のエフェクター細胞を調節する機構を知る必要がある。本研究では腸管上皮間リンパ球(IEL)に着目し,フローサイトメトリーとRT-PCRによりS.ratti(Sr)とN.brasiliensis(Nb)感染における細胞変化とサイトカイン産生の比較を試みた。また,腸管膜リンパ節細胞についても検討を行った。Sr感染マウスIELの平均回収量は正常マウスの40%以下、Nb感染マウスについては6%以下であった。SrとNb感染で,IELのCD3^+,CD4^+,CD8^+,γδTCR^+細胞の割合には根本的な差は検出されなかった。Sr感染マウスのIELにおいて,Th2タイプのIL-4,IL-3mRNAは正常ではほとんど検出されないが,感染7日目には顕著に増加した。Th1タイプのIFN-γmRNAは正常IELに検出され,感染によってもほとんど変化がなかった。感染により肥満細胞増殖因子の一つであるIL-3のmRNAがIELで顕著に増加することから,Srの排虫にはIELが何らかの関与をしているものと思われる。Nb感染マウスのIELについては,mRNAの検討はできなかった。 フローサイトメトリーにより腸管膜リンパ節細胞の細胞内サイトカインを検出した。SrとNb感染で,共にIL-3含有細胞は増加した。IL-4とIFN-γ含有細胞について,二つの寄生虫感染で根本的な違いは認められなかった。ところが,TNF含有細胞にはSrとNb感染で明らかな違いが認められた。Sr感染ではTNF含有細胞の割合が顕著に減少するが,Nb感染ではそれ程減少しなかった。 以上の結果は,腸管寄生線虫の異なる排虫機構を解明する上で重要な手掛かりとなるであろう。また,IELの回収数からNb感染では腸管粘液分泌量が多いと思われたので,Nb感染における粘液分泌調節機構についても検討をした。その結果,杯細胞からの粘液分泌がCD4^+細胞により調節されている可能性が示唆された。
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