研究概要 |
従来のコレラによる感染後免疫はベンガル型コレラ菌による新型コレラに対しては無効である。そこで新型コレラ菌に対するモノクローン抗体を作成して菌の特性を検討した。ホルマリン死菌免疫によって新型コレラ菌に特異的な4つのモノクローン抗体(IgG1,IgG2b,IgM,タイプ不明)を確立し、それぞれにG4,H2,M72,A9と名付けた。G4,H2,A9は生菌・加熱菌を共に凝集させ、全菌体(WCL)のSDS-PAGEに対するウエスタンブロットでスメア状の反応を示したことからLPSを認識している抗体であると考えられた。M72は生菌を強く凝集させるが加熱菌は凝集させず、WCLのウェスタンブロットでもスメア状反応は無く43kDaの蛋白バンド一本に反応した。M72に対応する抗原(抗原X)は培養上清中に遊離してくるが、菌体を激しくかき混ぜることによって大量に遊離する。抗原Xは限外濾過膜PM100(分子量10万カット)を通過せず、セファクリルS-1000カラムによるゲル濾過でブルーデキストランよりも先に流出した。抗原X含有分画のSDS-PAGEでは多数の蛋白バンドが見られるが、ウエスタンブロットでM72に反応する蛋白は存在しなかった。生菌体を0.5%Tween20で処理するとM72に対して凝集不能となるが、0.2%トリプシンで処理しても凝集は不変であった。一方WCLで反応する43kDaの蛋白はマルトース誘導性の外膜蛋白S(OmpS)であることが判明した。しかし、OmpSによる免疫血清は菌体を凝集させなかった。以上の結果から新型コレラ菌を特徴付ける抗原Xは極めて不安定な形で菌体表面に存在していること、その抗原決定基はOmpS中に安定した形で含まれているが免疫原としては十分に発現しないことなどが明らかとなった。もう一歩というところで抗原Xの同定にはまだ到達していない。
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