研究概要 |
日和見感染症の主要起因菌である緑膿菌の外膜には、薬剤や栄養物などの透過孔となるポーリン蛋白が三種類存在する。緑膿菌ではこれらポーリンの孔径は全て小さくこれが本菌薬剤耐性の原因と一つとなっている。そのポーリンの一つであるproteinD2(OprD)は、緑膿菌感染症に有効な治療薬であるイミペネム及びイミペネムに構造が類似している塩基性アミノ酸に選択的なポーリンである。報告者は、OprDポーリンがプロテアーゼ活性も発現していることを以下の実験から結論した。(1)高純度に精製したOprDに、蛍光ペプチドを加えて加水分解を調べた結果、ペプチドが分解されるのが分かった。(2)セリンプロテアーゼの特異的阻害剤であるDFPがこの分解反応を阻害した。(3)OprDに対するモノクローナル抗体が、この分解反応を阻害した。以上の結果はOprDがプロテアーゼであることを強く示唆する。しかしOprD精製物に微量のプロテアーゼの混入があり、それが今回のプロテアーゼ活性の本体であるいう可能性は否定できない。そこでOprDがプロテ-ゼであることを決定的に証明するために以下の実験を行った。トリプシンとOprDのアミノ酸配列を比較した結果、His^<156>,Asp^<208>,Ser^<2296>がOprDの触媒基であると推定できた。そこで部位特異的変異導入法を用いて、この三つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換した変異蛋白を作成し、プロテアーゼ活性を調べた。その結果、これら変異蛋白は全て、野生型蛋白に比べ0.1%以下の活性を示し、プロテアーゼ活性がほとんど消失している事が分かった。これはOprDがプロテアーゼであることの決定的な証明であり、同時にOprD2プロテアーゼの触媒基がこれら三つのアミノ酸残基であることも示すものである。チャンネル蛋白が同時にプロテアーゼ活性も持つ事が示されたのは世界で始めてである。
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