研究概要 |
本研究では,狂犬病ウイルスの神経病原性の発現に関わるウイルス側の因子および細胞側の因子について解析を行った.まず,ウイルス側の因子として,ウイルス糖タンパク質がもつ細胞膜融合能を発現する条件を中心に検討した.その結果,中性pHにおける膜融合能は従来と同様に病原性ウイルスのみが示す性質であり,非病原性ウイルスは酸性pH条件下でのみ膜融合能を発揮した.しかし,細胞外pHのコントロールによって細胞表面における膜融合によるウイルス感染の成立を指標として至適pHを調べると,病原性型と非病原性型との間には違いがなく,またエンドソーム内で到達しうる低い方のpHではむしろいずれのタイプのウイルスもゲノムの侵入がかなり抑制された.この結果は新しい問題を提起するもので,例えばエンドソーム内の急激なpHの低下はウイルスにとってはむしろ不都合であるが,速やかな膜融合によりゲノムを細胞質内へ送り込む能力が神経病原性の発現(即ち,神経細胞へのウイルスの侵入)と関連していることが示唆される.今後,この問題についてさらに追求する必要がある.一方,細胞側の因子として,特に塩化アンモニウムにより酸性pH依存性のウイルス侵入過程を阻止した条件下での神経芽腫細胞への感染の成立を指標そして,神経細胞表面膜の機能を左右する物質の影響を調べた.今回アセチルコリンレセプターに対する抗血清を作成しウイルス感染に及ぼす影響を調べたが,阻害的な効果は見られなかった.また,ブンガロトキシンやツボクラリンも影響がほとんどなかった.これに対して,MK801や,ケタミン,メカミラミンのようなナトリウムチャンネルブロッカーは狂犬病ウイルス感染の成立を強く阻害するのが観察され,アセチルコリンレセプターよりも,他のナトリウムチャンネルの関与が強く示唆された.
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