本研究の目的は、金属代謝異常ラットの脳内微量元素代謝および神経伝達物質代謝を詳細に検討することにより、中枢神経伝達機構における微量元素の役割を明らかにしようとするものである。本研究で得られた成績は下記のごとくである。 1.ウイルソン病のモデル動物であるLECラット(銅代謝異常ラット)の4、10および20週令の脳内微量元素濃度を測定した。その結果、LECラットの脳内銅濃度は、若年齢で低く、年齢依存性に増加することが明らかになった。また、他の微量元素濃度も、対照群に比較して変動することが明らかになった。 2.LECラットの4、10および20週令の脳内神経伝達物質代謝を検討した。 1)カテコールアミン代謝 LECラットの脳内ノルエピネフリンは、若年齢で低濃度を示し、逆に、ドーパミンは高濃度を示した。このことは、若年齢での銅濃度の低下による、ノルエピネフリン合成酵素のDBH活性の低下によることが、強く示唆された。 2)セロトニン代謝 LECラットの脳内セロトニン代謝は、高年齢になるにつれて亢進してくることが明らかになった。 以上より、脳内の微量元素の代謝異常は、種々の神経伝達物質代謝に影響をおよぼし、脳内神経伝達機構に影響を与えることが明らかになった。
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