研究概要 |
本研究では,尿中有機溶剤測定のための有効な(現場で利用できる)尿試料の採取及び保存方法(有機溶剤の揮発性に対処できる)を開発することを目的とした.代表的な有機溶剤であるトリクレンおよびトルエンを研究対象として,(1)冷凍保存と冷蔵保存,(2)試料容器の空間の影響,(3)水溶性のβ-シクロデキストリン・ヒドロキシプロピル誘導体の尿への添加-を検討した.さらに,(4)尿中有機溶剤測定(キャピラリーガスクロマトグラフ法)の標準液の多成分同時調整方法,また,有機溶剤使用工場での成績から(5)暴露濃度と尿中濃度の関係,(6)許容濃度暴露相当の尿中濃度,(7)尿濃度の補正-について検討した.その結果,満水状態での冷蔵保存が有効であり,さらに,水溶性のβ-シクロデキストリン・ヒドロキシプロピル誘導体の尿への添加が保存に有効であることがわかった.揮発性でしかも極めて低濃度の尿中有機溶剤が有効に保存できることが示せた.また,混合溶剤暴露に対しても,尿中有機溶剤の一斉同時分析(キャピラリーGCを用いた)のための簡便な標準液の調整方法を確立した.水溶性のβ-シクロデキストリン・ヒドロキシプロピル誘導体を添加することによる,容易に安定した極低濃度の標準溶液の作製法を考案した.有機溶剤作業場で,作業者の有機溶剤暴露濃度と尿中有機溶剤濃度は,よい直線関係を示した(相関係数r,回帰式y=ax:トルエン[r=0.950,y=0.0270x],MIBK[r=0.900,y=0.352x],MEK[r=0.919,y=0.519x],IPA[r=0.940,y=1.095x]).各々の有機溶剤の暴露濃度と尿中濃度の回帰直線から許容濃度暴露相当値を計算することができた.尿中代謝物では,尿濃度の補正(クレアチニン及び比重補正)が有効であるが,尿中有機溶剤の場合,未補正値の相関係数が最も1に近かった.本研究により,尿中有機溶剤測定のための尿試料の保存方法が確立でき,暴露濃度と尿中濃度に強い直線性があることが示せた.今後,暴露指標としての尿中有機溶剤の研究が加速度的に進展するものと考える.
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